残業代未払いは、企業が直面しやすい労務トラブルのひとつです。未払いが発覚すると、労働基準監督署の指導や労働審判、裁判などに発展し、企業にとって大きな経済的・社会的評価のダメージを与えることがあります。トラブルを未然に防ぐためには、適正な労働時間管理や給与計算の徹底が必要です。
本項では、残業代未払いを防ぐための基本知識と実務的な対応策について解説します。
このページの目次
残業代の基礎知識
1. 残業代の定義
残業代は、一般的には法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いた労働に対して支払われる割増賃金を指します。
所定労働時間が8時間未満の場合には所定労働時間を超えた労働時間についても残業代を支払う必要があります。ただし、この場合には、8時間を超えない(週40時間を超えない)限り、割増賃金とはならずに、通常の賃金により計算することになります。
2. 法定の割増率
- 時間外労働(法定労働時間超過):25%以上
- 深夜労働(午後10時~午前5時):25%以上
- 休日労働(法定休日):35%以上
- 時間外かつ深夜労働・休日かつ深夜労働:それぞれの割増率を組み合わせて考える50%以上や60%以上
- 月60時間超の時間外労働(中小企業は2024年4月から適用):50%以上
3. 適用外の従業員
以下の場合、残業代が支払われないこともあります。
- 管理監督者:労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合、残業代支給の対象外。ただし、深夜労働の割増賃金は支給対象。
- 裁量労働制:事前に定めた「みなし労働時間」による労働。裁量労働制には専門業務型と企画業務型とがあります。
裁量労働制を導入するためには以下の対応が必要となります。
- 本人の同意を得る・同意の撤回の手続きを定める(専門型・企画型)
- 労使委員会に賃金・評価制度を説明する(企画型)
- 労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う(企画型)
- 労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する(企画型)
- 定期報告の頻度の変更(企画型)
具体的には、専門業務型裁量労働制の労使協定に①を追加、また企画業務型裁量労働制の労使委員会の運営規程に②③④を追加後、決議に①②を追加し、裁量労働制を導入・適用するまで(継続導入する事業場では2024年3月末まで)に労働基準監督署に協定届・決議届の届出を行わなければなりません
※管理監督者や裁量労働制の適用条件を満たしていない場合、残業代未払いと判断されるリスクがあります。
残業代未払いが起きる主な原因
- 労働時間の記録管理不足
タイムカードや勤怠管理システムを適切に運用していない。
実労働時間が記録されていない。 - 固定残業代制度の誤運用
固定残業代が超過分の支払いをカバーできていない。
固定残業代の時間数が曖昧。 - 不適切な管理監督者の設定
実際には管理職ではない従業員を「管理監督者」として扱い、残業代を支払わない。 - 法定外休日と所定休日の混同
法定休日(労働基準法で定められた週1回の休み)と会社が設定する所定休日を混同し、休日割増賃金を支払わない。 - 無意識の「サービス残業」
従業員が申告せずに残業している場合など。
残業代未払いを防ぐための具体策
1. 労働時間の適正な管理
(1) 勤怠管理の徹底
- タイムカードやICカード、勤怠管理システムを利用して正確に労働時間を記録。
- 従業員が勤務時間外に職場に留まる場合も記録。
(2) 労働時間の申告制度
- 従業員が申告した労働時間と記録が一致しているか定期的に確認。
(3) テレワークの時間管理
- テレワーク中の労働時間を適切に把握するため、オンラインの勤怠管理ツールを導入。
2. 固定残業代制度の適正化
(1) 契約内容の明確化
- 固定残業代に含まれる時間数と賃金額を明確に労働契約書に記載。
- 超過分の残業代が支払われる旨を明記。
(2) 定期的な見直し
- 実際の残業時間が固定残業時間を超えていないか定期的にチェック。
3. 管理監督者の適正運用
(1) 労働基準法の要件を満たすか確認
- 役職:経営方針決定に関与する役職。
- 待遇:一般従業員より高い給与水準。
- 労働時間の裁量:労働時間が制限されていない。
(2) 適用対象の適正化
- 形式的な肩書きだけで管理監督者として扱わない。
4. 就業規則と労働契約書の整備
(1) 残業代に関する規定を明記
- 残業時間の算定方法や支払い基準を就業規則に明記。
- 従業員に規則を十分に周知。
(2) 労働契約書の更新
- 労働契約書に残業代の支払い条件や固定残業代制度を明確に記載。
5. 従業員への教育と意識付け
(1) 従業員向け研修
- 残業代に関する基本的なルールを説明。
- サービス残業の防止策を共有。
(2) 管理職向け研修
- 部下の労働時間を適切に管理する方法を指導。
- 残業代未払いが企業リスクを高めることを教育。
6. 外部専門家の活用
(1) 弁護士や社労士によるサポート
- 就業規則や労働契約書のレビュー。
- 労務トラブル発生時の迅速な対応。
(2) 労務監査の実施
- 第三者による労務監査を定期的に行い、潜在的な問題を早期発見。
残業代未払いが発生した場合の対応
1. 未払い残業代の支払い
- 未払いが発覚した場合は速やかに支払いを行い、争いを最小限に抑えます。
2. 労働基準監督署への対応
- 労働基準監督署の調査が入った場合、正確な記録を提示して説明。
- 指導内容を受け入れ、改善策を実行。
3. 労働審判や裁判への対応
- 労働審判や裁判に発展した場合、弁護士に相談し、適切な対応を取ります。
弁護士に依頼するメリット
1. 未払いリスクの事前防止
- 就業規則や契約書の作成・見直しを通じて、未払いのリスクを回避。
2. 適正な固定残業代制度の運用
- 法律に基づいた適切な制度設計をアドバイス。
3. トラブル発生時の迅速な対応
- 労働基準監督署や労働審判への対応を代理し、リスクを最小限に抑えます。
当事務所のサポート内容
当事務所では、残業代未払いトラブルを未然に防ぐための以下のサービスを提供しています。
提供サービス
- 就業規則や労働契約書の整備
残業代に関する規定の適正化をサポートします。 - 労務監査の実施
労働時間や賃金制度の監査を行い、問題点を明確化します。 - トラブル発生時の対応
正しい未払賃金の計算や従業員との交渉協議を行います。
労働審判や裁判の代理業務を行います。 - 従業員教育の支援
残業代未払い防止のための研修プログラムを提供します。